30代は仕事でも責任を任されるようになり、結婚や子育てなど公私ともに忙しく過ごす女性が多いと思います。
そんな中、20代のころに比べると無理がきかなくなったり、頭痛や耳鳴りに悩まされたりすることはありませんか?あるいは記憶力の低下を感じたり、些細なことにくよくよしやすくなったり、更には妊活がうまくいかないなど、生理不順や性交痛などで人知れず悩んでいませんか?
そんなあなたの悩みは、もしかしたら更年期の前触れかもしれません。この記事では、更年期障害の予防方法と更年期障害を改善させた人の事例を紹介します。
著者情報
下川 麻里
薬剤師
薬剤師として、 24年間で延べ1万人以上の患者に向き合ってきた。女性特有の悩みに対して、薬、漢方、アロマなどに関わる幅広い知識に対応し、女性が気軽に心身の悩み相談ができる薬店を開業。延べ1万人以上の心身の相談経験あり。
更年期障害は予防できる!
更年期とは閉経前後の約10年間を指します。身体の内側が大きく変化するため、程度の差はありますが、女性なら誰にでも何らかの症状(更年期症状)が現れます。更年期症状が生活に支障をきたすほど悪化した状態が「更年期障害」です。
更年期障害は女性ホルモン、特にエストロゲンの分泌量の変化と、それに影響された自律神経のバランスの乱れによって引き起こされます。
エストロゲンの減少は自然の摂理なので止めることはできませんが、自分の身体の変化を受け入れながら生活習慣を見直すことで、身体に現れる不快な症状を弱めることはできます。
30代の女性は日常が忙しくてストレスもたまりがちです。たくさんのストレスとエストロゲンの微妙な変化が絡み合った結果、自律神経のバランスが崩れることも少なくありません。
更年期障害の予防策は、適切な睡眠や栄養、適度な運動、そしてリラックスできる時間です。日頃自分を犠牲にして家族を優先している方が多いと思いますが、自分ファーストの時間を確保することが、更年期障害の予防につながります。
更年期障害の前兆は30代から始まる人も
エストロゲンは妊娠・出産に大きな役割を持つと同時に、肌や髪の潤い、女性らしい体つき、情緒の安定などに大きく関与しているホルモンです。妊娠・出産の適齢期である20〜30代に分泌量のピークを迎え、40代後半になると急激に減少します。更年期症状が顕著になるのはこの時期です。
更年期障害の症状は人により異なります。生理不順や性交痛などの女性生殖器系の症状をはじめ、肌の乾燥や抜け毛の増加、冷え、ほてり、多汗、頻尿、頭痛、動悸、些細なことから不安になる、イライラしやすい、不眠など、あげるときりがありません。そしてあまり症状を感じない方から、症状が重くて寝込んでしまう方まで様々です。
エストロゲンは30代後半から徐々に減少するため、30代でも更年期のような症状が見られることもあります。それを「更年期の前兆」または「プレ更年期障害」と呼ぶことが多くなりました。プレ更年期障害の原因は、自律神経の不安定が引き金になると解釈されています。
一般的にプレ更年期の症状は更年期よりも穏やかですが、穏やかとはいえ不快な症状ですから、予防・治療するに越したことはありません。
なお、30代での経血量の極端な変化や月経周期の大きな乱れは、卵巣のトラブルのサインかもしれません。その場合は「自分はプレ更年期」と自己判断せずに婦人科を受診することをお勧めします
更年期障害を予防する方法
30代はまだ更年期症状の治療を必要としない段階の人が殆どですが、更年期障害を予防するために、この時期から対策をしましょう。更年期障害を予防するためには、軽い運動を継続し、食生活を見直し、それによって身体を内側から温めることが大切です。
身体のトラブルの多くには、 “冷え”が関与しています。特に女性のトラブルにはその傾向が大きく見られます。冷えると血液の循環が悪くなるため、臓器に必要な栄養が運べず、臓器の老廃物の回収もうまくいきません。その結果、あらゆる臓器の不調を招きます。
例えば、体感する冷えはつま先だけだとしても、つま先で冷え切っている血液は心臓へ戻る過程で腹部を通り、内臓を冷やします。末端の冷えは内臓の冷えにつながっていると考えてください。
血行を改善するだけで、体全体が温まりやすくなり、更年期障害の予防につながります
更年期障害の予防法① 軽い運動をする
更年期障害の予防のために必要なのは、汗をかかない程度の軽い運動です。
ポイントは「卵巣をいたわる」ことです。エストロゲンは卵巣にある卵胞から分泌されています。卵巣をいたわることでエストロゲンの分泌がスムーズになり、更年期のトラブルの緩和につながります。
立ち方、歩き方、座り方を見直す
①立ち方を見直しましょう。
足を肩幅くらいに開き、背すじを伸ばし、顎を引き、両かかとに体重をかけます。この姿勢をできれば1分程度キープしましょう。股関節が押し上げられて周辺の筋肉が動き、そばにある卵巣の血行が良くなります。
②次に歩き方をチェックしましょう。
立ち方と同じように背すじを伸ばし、膝を曲げずに脚の付け根から動かして、一歩を出します。歩幅はなるべく大きくしてください。前傾姿勢にならないように気を付けましょう。
この動作も股関節がポイントです。脚の付け根から大きく一歩を踏み出すことで、骨盤内部の筋肉が動いて血流が良くなります。
③最後に座り方の見直しをしましょう。
猫背だったり、腰が丸まった座り方をしていませんか?この姿勢では骨盤が傾いて、骨盤の中にある臓器が卵巣を圧迫しています。
椅子に腰を下ろすときには、背筋をのばして、背中と腰のラインが一直線になるように意識しましょう。骨盤を立てて椅子に垂直におろすイメージです。かかとを床につけて軽く体重を乗せると、骨盤周りの筋肉にまで影響して内臓が持ち上がります。
この立ち方、歩き方、座り方で卵巣周辺の血行が良くなり、機能が高まります。立ち方、歩き方、座り方は、長年のクセがあるので、すぐに改善するのは難しいと思いますが、気が付いた時に直すようにすれば、徐々に体調も良くなります。
ふくらはぎの筋肉を鍛える
ふくらはぎは下半身の血液を重力に逆らって心臓へ押し上げるポンプの役割をしています。この筋肉の動きが悪いと、脚のだるさやむくみを引き起こすだけでなく、全身の血行も悪くなります。
ふくらはぎの筋肉を鍛える運動は、実は簡単です。脚を肩幅程度に開いて立ち、かかとをゆっくり上げ下げするだけです。20~30回やっていただきたいのですが、ポイントは、回数よりも続けることです。歯磨きとセットにするなどして、無理なく毎日続けてください。
更年期障害の予防法② 食生活の見直し
卵巣機能が高まる食事を摂るようにしましょう。
身体を温める食べ物を摂る
身体を温める食べ物を摂る事で、全身の血行を改善することができます。もちろん卵巣周辺の血行も改善されて、卵巣機能が高まることが期待できます。
身体を温める食べ物とは、大雑把にいうと、冬が旬のもので、根菜や発酵食品などです。
ニンジンやゴボウがたっぷりのお味噌汁などがおすすめです。生野菜ばかりたくさん摂ると、身体が冷えて代謝が悪くなることがあります。
タンパク質を意識的に摂る
タンパク質は身体の組織やホルモンなど全ての材料になります。タンパク質が不足すると、臓器の働きは鈍くなり、ホルモンのバランスが崩れます。
タンパク質は食事でしか摂ることができない上、摂り貯めできないので、こまめに摂る必要があります。炭水化物がメインの食事になっても、意識して肉や魚のおかずをつけるようにしてください。できればミネラルやビタミンも意識すると、体の中でタンパク質が効率よく利用されるようになります。
最近は炭水化物をカットするダイエット方法がありますが、これには注意が必要です。炭水化物もタンパク質も共にエネルギー源になりますが、炭水化物が不足すると、すでに体を構成しているタンパク質を利用して、エネルギーを産生し始めます。そのため、肌が急に荒れ始めるなど、タンパク質不足の症状が出てくることがあります。美容のために、炭水化物も適度に摂ってください。
規則正しく3食食べる
食べ物が体内に入り、それを消化・吸収するために内臓が動くと、熱が産生され、その熱が全身に運ばれます。つまり、食事をすることで身体が温まり、逆に食べる量や回数が少ないと身体は冷えます。
規則正しい食事をすることで、身体が温まり、更年期障害の予防にもつながるのです。
更年期障害の予防法③ 漢方薬を利用する
更年期症状は具体的な症状があるものの、その現われ方は人によって違うため、西洋医学では対処が難しいことが良くあります。一方、漢方医学は、症状を分類せずに患者さんの状態をトータルで扱います。そのため、更年期障害に悩む方の多くが、治療に漢方薬を用いています。
さらに、漢方薬は治療だけではなく、予防にも使えます。漢方医学では、今は病気とは言えないような不調でも、将来病気につながりかねない状態を「未病」と呼び、治療の対象とします。更年期というにはまだ早い時期に何となく感じる不調、それはまさしく「未病」です。
「女性のための三大漢方薬」と言われるものがあります。当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散の三つです。女性の体調不良の多くが、この三つの漢方薬で改善します。この三つがそれぞれどのような方に向いているのか、簡単に解説しましょう
当帰芍薬散
血液を補って身体を温める生薬「当帰」が含まれています。血液の循環が滞り、筋肉量も低下し、手足の先に冷えを感じるタイプの方に向いています。しもやけ、立ち眩み、ニキビなどのトラブルが起こりやすく、10〜20代に処方されることも多い漢方薬です。
桂枝茯苓丸
気を巡らせる生薬である「警視」や「牡丹皮」などを含む漢方薬です。上半身がのぼせる方に向いています。このタイプは上半身ののぼせが気になるのですが、実際には下半身が大変冷えていることになかなか気づけません。イライラ、頭痛、顔のほてり、肌荒れなどの症状も見られます。
加味逍遙散
肝を整える生薬「柴胡」を含む漢方薬です。ストレスによる自律神経の乱れが大きい方に向いています。疲れているのに眠れない、集中力が続かない、イライラする、食欲がない、呼吸がつらいなどの症状が見られます。
「女性のための~」といった商品名の市販薬も、内容を見ると、この三つの漢方薬を少しアレンジしたものがほとんどです。これらのほかにも、漢方薬の選択肢はたくさんあります。漢方薬も市販薬も、医薬品です。何となくではなく、ご自身の症状を自覚した上で、必要ならば専門家に相談しながら選んでください。
よく、漢方薬は長く続けないと効果が出ない、と言われますが、実際には2週間程度飲めば、何かしらの効果が出るものです。2週間続けても何も変化を感じない場合は、医師や薬剤師に相談して他の薬剤に変更してください。
更年期障害の悩みを解決した人の事例を紹介
更年期障害の悩みを改善させた人の事例を紹介します。
頻尿が悩みの40代女性
【悩み】40歳を少し過ぎたAさんは、頻尿で悩んでいました。
【対策】効果には半信半疑のまま、ふくらはぎの筋肉を鍛える体操を半年ほど続けたある日、トイレを気にしていない自分に気が付いたそうです。他人にはなかなか言いづらい「トイレの悩み」が解消して、晴れ晴れとしていました。
肌荒れが悩みの40代女性
【悩み】40代のKさんは、頬のあたりの肌荒れを気にしていました。
【対策】いつも簡単に済ませている昼食に、タンパク質を摂るために、毎日卵を一個加えるようにしました。一週間もしないうちに、ファンデーションのノリが良くなりました。
不眠とほてり、発汗が悩みの50歳女性
【悩み】間もなく50歳を迎えられるYさんは、眠りが浅い日が続き、上半身がほてり、汗をかきやすくなったと悩んでいました。
【対策】桂枝茯苓丸を一ヶ月程服用したところ、不眠もほてりも気にならなくなりました。
更年期を快適に過ごすための準備をしましょう
女性ホルモンの変化によって引き起こされる更年期は、自然の摂理なので止めることはできません。しかし、更年期に起きるトラブル「更年期障害」は、30代からの過ごし方で弱めることができます。
30代でも自分の身体に何かしらの変化を感じることはあると思います。それを受け入れて自分を丁寧に扱うことで、身体だけでなく自律神経も整って、更年期を快適に過ごすことができます。
忙しくてストレスがたまりがちな日常の中でも、ご自分の身体を見つめ、労わる時間をほんの少し作ってください。それが、更年期障害の予防につながります。
参考文献
頼りになるお医者さんシリーズ「50歳からのつらい症状にはこれしかない!」総合内科専門医・漢方専門医 高橋浩子 著 (ワニブックス)
「わたし、39歳で「閉経」っていわれました」たかはしみき 著 (主婦と生活社)