ES細胞とは簡単に言うとどういう意味?樹立の過程やiPS細胞との関係などをわかりやすく解説!

ES細胞(胚性幹細胞)とは、哺乳類の胚盤胞の内側にある内部細胞塊(inner cell mass; ICM)から樹立できる細胞のこと。今回はES細胞の樹立の過程やiPS細胞との関係についてわかりやすく解説します。

英語名:embryonic stem cell、英略語:ES cell, ESC
独:embryonale Stammzellen、仏:cellule souche embryonnaire
同義語:胚性幹細胞、胚性多能性幹細胞、EK細胞

目次

ES細胞とは?

ES細胞(胚性幹細胞)とは、哺乳類の胚盤胞の内側にある内部細胞塊(inner cell mass; ICM)から樹立できる細胞のこと。あらゆる細胞に分化可能な分化多能性(pluripotency)を持つ幹細胞の集合であり、in vitroにおいて無限に自己複製をすることができる。1981年にはMartin John Evans博士らによってマウスES細胞が、1998年にはJames Thomson博士らによってヒトES細胞株が樹立された。

マウスES細胞

樹立

1981年に初めて報告されたマウスES細胞*だが、現在では樹立や培養方法も確立された。一般的な他の細胞と異なり、ES細胞を培養する際は未分化の状態を保持しながら増殖させることが必要となる。具体的には、フィーダー細胞と呼ばれる下地になる細胞の上に胚盤胞期まで発生させた胚を播種し、分化抑制因子として白血病抑制因子(LIF)を添加した培地において培養させると、内部細胞塊は増殖をはじめる。充分に増殖したこの内部細胞塊を、ガラス毛細管で分離した後トリプシン処理で分散させ、また新たなフィーダー細胞上に播種する。この作業を繰り返し継代培養することでES細胞株を樹立することができ、一般的な手法として用いられることが多い。
*原著ではEK細胞と表記されている
**一般的にはマウス胎児由来の線維芽細胞(MEF)が用いられる

ES細胞とノックアウトマウス

現在マウスES細胞は、ノックアウトマウスを用いた研究手法にもよく使われている。ES細胞と初期胚を凝集、あるいは注入し子宮に移植して内部細胞塊と混ぜ合わせることで、キメラマウスが誕生する。このキメラマウスを交配させることで、マウスES細胞の遺伝形質を受け継いだマウス個体を誕生させることができる。
そのためこの時、遺伝子組み換え技術を用いてゲノムの特定部位を欠失させたES細胞を利用すると、遺伝子が改変されたマウス個体を生み出すことができ、交配して四世代目にはホモノックアウトマウス個体の作成も可能となる。ノックアウトマウスはマウス個体の遺伝子機能解析のほか、疾患モデルの作製など現在でも研究手法として広く用いられている。なお任意の遺伝質を欠失させたノックアウトマウスの作製については、Mario Capecchi博士、Oliver Smithies博士、Martin Evans博士の3氏にその功績を称えて2007年ノーベル医学・生理学賞が贈られた。

ヒトES細胞

樹立

ヒトのES細胞は、1998年に初めて樹立が報告された。当初は、マウスES細胞と同じようにLIFを添加した培地を用いていたが、その後ヒトES細胞においては、LIFではなく塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)やアクチビンAが自己複製を促進することが明らかとなった。また、ドーム状のコロニーを形成するマウスES細胞とは異なり、ヒトES細胞は平坦な層状にコロニーを形成する。

なおマウスES細胞よりもヒトES細胞は増殖が遅く、不安定で分化もしやすい。さらにトリプシン処理に対しても過敏であり、分散させすぎるとアポトーシスが起きてしまうなど、マウスES細胞に比べてヒトES細胞は扱いが難しいと言われている。

ES細胞の課題

ヒトES細胞の倫理的な問題

ES細胞を樹立させるためには、受精卵および発生が進んだ胚盤胞期の初期胚が必要となる。しかしヒトの胚盤胞期胚を得るのは容易ではない。子宮に戻せば生命となる受精卵を用いることは生命の萌芽を失うことだとして、倫理的な議論や批判を呼んでいる。このような観点から、ヒトES細胞で用いる材料としての受精卵は不妊治療で余剰胚となったものを使用するのが一般的だが、この研究も国ごとにさまざまな制限や対応が存在する。

移植には拒絶反応が伴う

免疫機能として、人体には体内に入り込んだ異物を排除する機能がある。ところがES細胞から作った臓器や細胞を移植するとなると、提供を受ける患者にとって元のES細胞は異なる遺伝子を持っている。そのため移植をしても異物とみなされ、拒絶反応を引き起こす可能性も高い。

iPS細胞とES細胞

このような背景下で、2006年8月に山中教授らによってiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製する技術が報告された。iPS細胞はES細胞と同様に分化多能性を有しているが、受精卵は使用せずに体細胞に遺伝子を導入することで作製できる。そのためES細胞の抱える倫理的問題や拒絶反応などの課題も解決できると期待され、現在も盛んに研究されている。
ただし、iPS細胞はあくまで人工的な操作によって得られる細胞である。そのためiPS細胞の研究にはES細胞との類似性の厳密な検討が必要とされ、iPS細胞とES細胞が並行して推進することが今後も必須と言われている。

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