肌の調子が悪いわけでもないのにメイクのノリが悪くなった、たるみで毛穴が広がって目立つなど、年々感じる肌の衰えをどうにかしたいと思いませんか？近ごろ美容医療業界で注目されている幹細胞治療なら、あなたの願いを叶えてくれるかもしれません。
この記事では、幹細胞治療で若返る理由や似たような若返りを期待される治療との違いについて解説します。
著者情報
小坂 恵
美容皮膚科看護師 / 美容医療ライター
看護師として総合病院で病棟・外来勤務（婦人科、整形外科、脳神経外科、放射線科など）を経験。また、皮膚科専門医の下で皮膚科・形成外科・美容皮膚科のクリニックで働いた経験を活かし、美容医療ライターとして活動中。美容や医療に関する専門的な記事の執筆や監修を手がける。
様々なメディアで、コラム監修、執筆等を行い、美容専門家として認定され掲載されている。
幹細胞治療で若返る仕組み
ヒトの身体にはさまざまな種類の細胞があり、それぞれに必要な機能を備えた細胞が組み合わさって内臓や皮膚などの組織ができています。中でも幹細胞は同じ細胞を増やすことも、違う細胞へと姿を変えて増えることもできるのが特徴です。
身体のすべての細胞は日々死滅と再生を繰り返していますが、失われる細胞の代わりに体内の幹細胞が新しい細胞を生み出すことで身体の機能を維持しています。
幹細胞治療は私たちの組織を構成・再生している幹細胞の働きをサポートし、身体の機能を回復させることを目的とした再生医療です。
紫外線や加齢で衰えていく細胞の変わりとなる元気な細胞を作り出して、変性した組織そのものの若返りを可能にしています。
幹細胞は皮膚にもあり、コラーゲンやエラスチンといった肌の潤いや弾力を生成できる線維芽細胞をつくりだす働きを持っています。若いうちは線維芽細胞の働きが活発で数もたくさんあり、ある程度なら傷ついた組織もすぐに修復可能です。
しかし、加齢やさまざまな外的ダメージで線維芽細胞が劣えて数も減少してくると、修復が進まずハリや弾力のないたるんだ肌へと劣化していきます。
幹細胞治療を行うと線維芽細胞の数そのものが増えることで、衰えた細胞の働きも活発化して肌全体が元気な状態に回復し、劣化した肌の修復もできるようになるわけです。
幹細胞治療と他の再生医療との違い
美容医療に用いられている再生医療には、幹細胞治療の他にも「PRP療法」と「ACRS療法」などがあります。
PRP療法は、傷などの損傷から組織を修復させる血小板の働きを利用した治療です。自分の血液から血小板を多く含む部分を抽出して、成長因子や炎症を抑えるサイトカインを活性化させて直接注入します。
ACRS療法も似たような治療ですが、血小板から成長因子やサイトカインだけを抽出した成分で、サイトカインの量がPRPの5倍も含まれた凝縮タイプの製剤です。
PRP療法もACRS療法も、肌の再生を促してハリや潤いのある肌へと導いてくれます。しかし、血小板や成長因子を使った治療よりも高い再生能力を発揮するのが、幹細胞を使った治療です。
美容医療で行っている幹細胞治療は、自分の脂肪などから幹細胞を取り出して培養し、修復したい組織に直接注入するだけの簡便な方法です。骨髄から採取する方法もありますが、費用が高額になりやすく採取できる幹細胞の量もそれほど多くないため主流ではありません。
外科的な幹細胞治療には、耳の後ろなどの皮膚から採取した線維芽細胞を増殖させて移植する方法もあります。また、幹細胞治療は他人の組織（へその緒など）から幹細胞を取り出して培養することも可能です。
幹細胞治療と幹細胞培養液治療の違い
幹細胞治療の際に、幹細胞を増やすために培養液で育てる過程があります。幹細胞治療には幹細胞そのものが使用されますが、培養液にも豊富な成分が含まれており肌への再生力が期待できます。
幹細胞培養液を使った治療は「幹細胞培養液治療」などと呼ばれ、使用するのは細胞が入っていない培養液の上澄みです。幹細胞培養液は、美容医療以外にも化粧品など幅広い用途に活用できるのが特徴です。
幹細胞培養液には幹細胞が培養される間に、数百種類の成長因子やサイトカインなどが放出されています。幹細胞を直接注入する治療に比べて、アレルギーのリスクが少ないという点ではより安全性が高い治療です。
幹細胞治療は自分の細胞を用いて機能を回復させる治療ですが、幹細胞培養液治療は幹細胞が放出する生体内物質を活用した治療方法になり、幹細胞治療や再生医療とは別物になります。
幹細胞そのものを使った再生治療は、注射できる範囲の組織を再生・修復する効果が期待されます。気になる部分に直接注入する方法では、ほうれい線やたるみなど肌の悩みを解消でき、点滴では血液の流れに任せて修復が必要な部分へ幹細胞を届けることも可能です。
幹細胞培養液でもダメージを受けた組織や神経を修復でき、点滴投与でも抗酸化作用による生活習慣病の予防やエイジングケアの面で期待できます。
幹細胞治療はどこでも受けられるわけではなく、厚生労働省の許可がある美容クリニックのみで治療ができます。しかし、まだ認められているクリニックの数が少なく治療が高額になりがちです。
一方で、幹細胞培養液治療は取り扱えるクリニックが多く、幹細胞を用いる治療に比べて安い費用で受けられます。
幹細胞コスメも効果はある？
最近よく耳にするようになった「幹細胞コスメ」は、実際には幹細胞は使われておらず、幹細胞培養液が美容成分の一つとして使用されています。
特に安価な幹細胞コスメは「ヒト由来」の幹細胞培養液ではなく、豚や馬などの「動物由来」であったり「植物由来」の幹細胞培養液が用いられていることがあり注意が必要です。
動物由来の幹細胞コスメはアレルギーを発症するケースがあり、植物由来やヒト由来と比べて肌の再生をサポートする力が弱いという特徴もあります。
ヒト由来の幹細胞コスメは元々ヒトの体内にある成分が含まれているので、アレルギーのリスクが少なく再生能力にも効果的に働きかけてサポートします。
幹細胞コスメは肌細胞の働きを活性化させ、しわやたるみ、くすみやしみといった年齢ケアが得意です。ターンオーバーを促すことで肌が生まれ変わり、ニキビや肌荒れ、乾燥などの肌トラブルにもアプローチできます。
一般的に、化粧品類はさまざまな美容成分や原料を配合して作られており、配合されている美容成分の濃度がかなり薄いものもあります。どんな美容液でも言えることですが、配合されている成分がどんなにいいものでも一定の濃度以上の配合がされていないと作用は見込めません。
幹細胞コスメでも同じように、しっかりとエイジングケアしたいのなら幹細胞培養液の原液を使用した美容液を使用するのがおすすめです。
幹細胞治療の今後の可能性
近年では主流だった化学物質を合成して作られていた医薬品から、人間の身体で作られている生体物質を使った「バイオ医薬品」へと医療全体が変わり始めています。
その動きを受けて再生医療も急成長しており、幹細胞の再生力を使った幹細胞治療が新しい治療方法として確立しつつあるのです。
バイオ医薬品は遺伝子工学を利用して生産されていて、糖尿病治療薬の「インスリン」や低身長や月経過多の治療にも使用される「ホルモン製剤」など人体の機能を補う薬です。
今ある幹細胞治療もバイオ医薬品の治療を応用したもので、細胞の再生能力を用いて組織や臓器の機能回復と再生を目指す医療です。
美容医療では皮膚細胞の再生機能を維持することで、見た目の若々しさを維持できますが、近い将来では人体の機能低下による認知能力の低下や生活習慣病などの予防や治療も可能な世の中になることが予想されます。
再生医療をしている人としていない人では、見た目の若返りだけでなく身体的な機能面でも大きく差が開いていくでしょう。
まとめ
幹細胞治療は美容医療で行っている再生医療の中でも安全性が高く、私たちが身近に受けられる治療方法になってきています。
今後さらに幹細胞を使った治療が発展し、医療の様々な分野で応用されてくれば細胞の老化による身体の変化を食い止められる可能性があります。
美容医療の分野でも幹細胞を使ったエイジング治療が、さらに効果的で安価になっていくはずです。再生医療が身近になれば、20代30代など早い段階で治療を始めやすく、長期的に若い状態を維持できるでしょう。
しかし、まだ幹細胞治療に対応しているクリニックの数は多くありません。また、再生医療の中でも高価な治療であり、気軽に受けられるほどにはなっていないのが実情です。
幹細胞治療が自分に合うのか不安に感じる場合や本当にエイジング対策ができるのかを確かめてみたいのであれば、幹細胞培養液治療や幹細胞コスメから試してみるのもいいでしょう。
幹細胞コスメを使用する時にはヒト幹細胞由来で原液が使用されているものを選ぶと安心です。しっかりと品質の良いものでエイジングケアをすれば、効果を実感できるでしょう。
参考文献