鏡の中の自分の顔色が、最近くすんで見える。気がつけば爪の色も髪のツヤも悪くなった。
30代の女性の中には、そんな風に感じている方が多いのではないでしょうか。
美容面だけでなく、冷え性や肩こり、慢性的な頭痛、そして、生理不順や妊活に人知れず悩んでいる方も、少なくないと思います。そんな悩みの原因の一つは、血行にあるかもしれません。こう聞くと生真面目な方は、すぐにこう考えるでしょう。「血行を良くするために血液の循環を良くする運動したり、血液をサラサラにするための食品やサプリを意識して摂らなくては!」運動も血液サラサラもたいへん重要です。
でもそれだけでは、血行は思うように改善できません。血行不良を改善するためには、まず血行不良の原因を探る必要があります。この記事では、そもそも血行不良がなぜ起きるのかを説明した上で、改善方法をご紹介します。
著者情報
下川 麻里
薬剤師
薬剤師として、 24年間で延べ1万人以上の患者に向き合ってきた。女性特有の悩みに対して、薬、漢方、アロマなどに関わる幅広い知識に対応し、女性が気軽に心身の悩み相談ができる薬店を開業。延べ1万人以上の心身の相談経験あり。
血行不良は老化を促進!アラフォー女性は要注意
血行不良に伴う体の不調は、冷え性や肩こりにとどまらず、肌や髪の毛などの美容系の悩み、生理痛や不妊症、更年期障害といった女性特有のトラブル、高血圧や脳梗塞のような循環器系のトラブル、更にはイライラやうつ症状などのメンタルトラブル、がんや認知症などの疾患にまで影響しています。
つまり血行不良は、体の外側と内側、両面の老化を促進する大きな要因なのです。ここで、とても不安になった方は多いのではないでしょうか。肌色も髪ツヤも悪くなった私は、血行不良に違いない。
このままだとどんどん老化が進み、更年期障害が現れ、体調はどんどん悪くなって、遠からずがんになって苦しんだり、早くから認知症になってしまうのかしら…。そんなに悩む必要はありません。
血行不良のサインをご自身で確認できたのなら、それは血行改善の第一歩です。血行改善は今日から始められます。まずは生活を見直して、今のご自身の身体を整えましょう。それは、将来の老化や疾患の発症を遅らせることにも繋がります。
血行不良で起こる症状
血行不良で身体には様々な不調が起こります。そのサインを見逃さず、ケアしていきましょう。血行不良による諸症状とそれらが起きる原因について詳しく見ていきます。
冷え性
血行が悪いと、温かい血液が毛細血管の隅々まで運ばれにくいので、体の末端は常に冷えを感じます。血管は冷えを感じると収縮してしまうので、なおさら血液が流れにくくなります。
真夏でも体が冷えている気がする方も少なくないでしょう。それはエアコンのせいではなく、血行不良のせいで体が温まりにくくなっているのです。
足のむくみ・肩こり・頭痛
足に運ばれた血液は静脈を通って上半身へと戻されますが、静脈の力が弱いと、血液は長時間足に留まります。その内、静脈の水分が血管の外ににじみ出ます。これがむくみです。
この時、上半身は運ばれてくるはずの血液が運ばれてこないため血液不足に陥り、その結果頭痛や肩こりなどの症状が発生します。
生理不順・不妊
足に留まった血液はなかなか循環できずに徐々に冷えていきます。冷えた血液はやがてゆっくりと静脈を通って上半身へと運ばれます。
左右の足の静脈は骨盤のあたりで一本に合流しますが、この合流点の近くには子宮や卵巣があります。子宮や卵巣は、運ばれてきた冷たい血液で冷やされて、働きが鈍ってしまいます。生理不順や生理痛、更年期障害、更には妊活がうまくいかないことには、血行不良が大きく関与しています。
立ちくらみ、落ち込みやイライラなどのマイナス感情
立ちくらみは一時的に脳の血流が不足した結果起きます。血流不足が一時的なら、ちょっとしたふらつき程度で済みますが、慢性的になると脳の働き自体が鈍くなってきます。
なぜなら脳が機能するためには、大量の酸素や栄養が必要で、その酸素や栄養は血液によって運ばれているからです。
脳の活動が鈍ると、イライラしやすくなったり、気持ちが沈んだり、記憶力が低下して認知症のような症状が出たりします。
血行不良の原因と改善方法
血流を改善するために、血液をサラサラにするためのサプリを飲んだり、ストレッチに励んでいる方は少なくないでしょう。
ではその方法で、冷えや立ちくらみなどの症状は改善しましたか?残念ながらあまり改善しない方が、案外多いのではないでしょうか。
実は多くの人の血行不良は、血液をサラサラにしたり、ストレッチをするだけでは改善しません。なぜなら血行不良の根本的な原因の大半は「血液の不足」だからです。
血液のドロドロを改善したり、運動で血の巡りを促すのは間違いではありません。ただ、血液そのものが不足している状態で血の巡りが良くなると、体は少ない血液を無理やり全身に行き渡らせようとします。その結果無理が生じて、かえってふらつきが増してしまうのです。
せっかく積み重ねている努力を成果に結びつけるためにも、まず血液を作って増やしましょう。
血をしっかり作るための食事を摂る
体は食べた物から作られます。それは血液も同じです。血液を作って増やすためには、まず食生活を見直しましょう。
意識してタンパク質を摂ってください。肉や魚、植物性なら豆腐や納豆などです。タンパク質は体の全ての組織の材料になります。血液成分もタンパク質から作られています。
同時に炭水化物も適度に摂ってください。タンパク質も炭水化物もエネルギー源になります。炭水化物をカットし過ぎると、体を構成するためのタンパク質がエネルギー源として利用され始めます。結果としてタンパク質不足で血液が作られにくくなります。
空腹の時間を作る
実は胃腸には空腹の時間が必要です。食後90分くらいで胃は空になります。すると食べ物を消化する時よりもさらに強く、胃は収縮します。その刺激は小腸にまで伝わります。
この収縮は、胃や腸の中にある食べ物の残りかすや古い粘膜をはぎ取る、いわば胃腸の掃除です。この掃除は空腹が続いていれば90分おきに15回以上行われます。
掃除が行われなかった時のことを想像してみてください。お腹の中はごみが残って、腸壁は汚れたままです。そのままでは胃腸の働きは低下して、消化力は弱くなり、十分な栄養が吸収できません。
空腹の時間をしっかり確保して、お腹の中を掃除することで、食事の栄養をきちんと吸収することができます。
寝る前には特に空腹を意識しましょう。夕食が遅かったり夜食を食べてしまうと、寝る時に空腹になっていないので掃除は開始されません。眠っている間は消化が進まないので、寝ている間ずっと胃腸の掃除ができないままです。夕食は控えめにして、夕食を食べてから就寝までは少なくとも90分以上空けてください。
よく噛んで食べる
よく噛まないで食事すると、胃の中で消化する時間が長くなります。すると、胃腸の掃除の時間にずれ込んでしまい、十分な掃除が行われません。似たような理由で、大食いも禁物です。腹八分目の食事をゆっくりと味わって、胃腸を大切にしてください。それが血液不足を補う基本です。
筋肉を鍛える
先に足の静脈の重要性をお伝えしましたが、実は静脈の動きは筋肉にコントロールされています。筋肉が弛緩・収縮を繰り返すことで、静脈がポンプのように血液を運んでいます。そのため筋力が落ちてくると、静脈の働きが悪くなり、血行が悪くなります。
ふくらはぎの筋肉を鍛える方法を、「更年期障害は30代の過ごし方で予防できる!食事や漢方を紹介」 (https://stemcell.analyst.jp/magazine/730/#index_id3) でご紹介していますので、ぜひ実行してみてください。
今回はもう一つ、簡単にできる呼吸法「ドローイング」をご紹介します。これは腹式呼吸をしながらインナーマッスルを鍛える方法です。
<ドローインクのやり方>
背筋を伸ばしてまっすぐ立ち、お腹を膨らませながら鼻から息を吸います。息を吸い終わったら、お尻の穴に力を入れます。お尻の穴に力を入れ続けたまま、ゆっくり口から息を吐き、お腹をへこませていきます。お腹の中の空気を全部吐き出すイメージです。息を吐き終わったら、自然に呼吸しながら、お腹をへこませた状態を30秒キープします。
これが1セットです。1日に何セット行ってもかまいません。ドローイングは慣れてくると家事や仕事の最中でも簡単にできます。
腹式呼吸は副交感神経のスイッチを入れる効果があるので、興奮状態の神経をリラックス状態へと緩やかに導いてくれます。
インナーマッスルが鍛えられると内臓が正しい位置に戻り機能が改善するので、気づけば便秘が解消していたり、ポッコリしていた下腹部がすっきりすることもあります。
ストレッチ・マッサージをする
同じ姿勢を長時間保っていると、筋肉が固まって血の巡りが悪くなります。そんな時には、ストレッチやマッサージで筋肉をほぐすと血行が改善します。
また、毛細血管は冷えを感じると収縮してしまいます。「冷え→血行不良→冷え」の悪循環を断つために、時々軽く手足のセルフマッサージをして血行を促すと良いでしょう。
血行不良におすすめの漢方
漢方では症状を分類せずに患者の状態をトータルで扱います。そのため「血行不良に特にお勧めの漢方薬」という形での紹介は難しいのですが、「更年期障害は30代の過ごし方で予防できる!食事や漢方を紹介」以下で紹介した「女性のための三大漢方薬」(桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遙散)はおすすめです。
漢方薬の成分で言えば、体を温めたり血行を改善するには、生姜が大変効果的です。市販の漢方製剤の中には、既存の処方に生姜を加えたものなどもありますので、医師と相談の上で利用するのも良いでしょう。
漢方薬も薬です。自己判断せずに、必ず専門家に相談して選んでください。
血行不良におすすめの飲み物
漢方のご紹介と重複しますが、生姜は効果的です。最近では、生姜入りのシロップや生姜入りのココアが多く販売されているので、ぜひ利用してみてください。
近年ではココアに含まれるカカオポリフェノールが末梢血管を拡張し、手足の血流を促す働きがあるとして注目されています。普段からお茶代わりに飲むならば、ごぼう茶やプーアル茶もおすすめです。どちらもポリフェノールの効果で腸内環境が整うと言われています。プーアル茶はわずかですがカフェインを含むので、量によっては利尿作用が強く出ることもありますのでご注意ください。
血流を良くして、老けない身体を目指そう!
血流が悪いと日常的に冷え性や肩こりに悩まされ、肌や髪のツヤが悪くなり、婦人科系や循環器系やメンタルのトラブルを抱えやすくなります。
逆に言えば、血流を良くすれば、ここに挙げたようなトラブルに急に襲われる心配は少なくなります。そして血流を整えるためには、まず血液をしっかり作ることが重要です。年齢を重ねれば誰しも、少しずつ心身が変化します。それは止めようがありません。
しかし、血流を整えておけばその変化は緩やかになり、気持ちに余裕をもって徐々に変化を受け入れることができます。「老化」ではなく年齢なりの変化を楽しめる体と心を目指しましょう。
参考文献
「血流がすべて解決する」漢方薬剤師 堀江昭佳 著 (サンマーク出版)
「わたし、39歳で「閉経」っていわれました」たかはしみき 著 (主婦と生活社)