若い頃はお酒を飲んだ次の日も元気に会社に出勤できていたのに、30代半ばにもなると、お酒が弱くなったり、翌日の顔のむくみや怠さが辛いなど、身体の変化を感じる時期かもしれません。
少し老化を感じるようになるアラサー、アラフォー女性は、お酒との付き合い方を見直してみるのもよいでしょう。
あなたは自分の体質に合ったお酒を選んでいますか?カロリーや糖質が低いお酒を飲んでいれば、大丈夫と思っていませんか?お酒は飲み方を間違えると、太るだけでなく、肌の老化に繋がります。
今回は、若々しく健康的に過ごせるお酒やその飲み方について、中医薬膳(古代中国医学に基づいた食事方法)の視点からご紹介します。中医薬膳とは、古代中国医学に基づいた食事方法のことで、自分の体質や体調に合った食材を選ぶことで、心身のバランスを整えていきます。
著者情報
鈴木 綾
国際中医薬膳師
国立北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)卒業。
国際中医薬膳師、中医薬膳茶師、薬酒マイスター、登録販売者の資格を保有。レストランでのメニュー開発、執筆、研修等で、簡単な食材で始められる身近な薬膳の啓蒙を行っている。
薬酒・薬膳酒協会認定店「Trad Gras薬酒バー本店」、合同会社漢満堂運営「薬膳八百屋ファルマルシェ」の店員としても勤務。
お酒は老化を促進させるのか?
お酒が老化を促進させるかどうかは、お酒の種類と飲む量によります。
多量のお酒を飲み続けると、老化だけでなく、高血圧や脳卒中などの健康被害も出てきます。しかし、お酒によっては、少量であれば、むしろこのような健康被害のリスクを回避し、アンチエイジング効果が期待できます。
中医学的、肌の仕組み
まず「肌」がなにでできているかをご説明します。
中医薬膳では、肌を含め人間の身体は「気・血・水(津液)」という3つのものから成り立っていると考えます。
血は全身に栄養を与える血液、水は血以外の体液(涙・鼻水・腸液・汗等本当に全てです)、気は全てのエネルギー源で、血・水を動かし自律神経やホルモンのような役割を担っています。
この3つがバランスよく揃うことで、ハリとツヤのある健康的な肌を作り出します。
具体的には、水が十分にあり(赤ちゃんの肌がまさにその状態です)、血が身体の隅々まで行き渡り(赤色素であるヘモグロビンが十分に存在すると健康的な肌質に見えます。貧血の人は血が足りていないので肌は不健康な白さをしています)、気が十分に巡っている(血・水が行き渡るために必要)ことです。
お酒の肌への影響
「気・血・水」のバランスを崩す原因は様々ですが、その1つがアルコールの過剰摂取です。アルコールの代謝は肝臓で行われますが、過剰摂取により気・血・水のバランスが崩れます。まず最初に気の巡りが悪くなります。気の巡りが悪くなると、血・水の巡りも当然悪くなり、むくみやチアノーゼに繋がります。
また、過剰なアルコールを代謝するために、過剰に気・血・水も使われます。気・血・水の不足により、肌の色が悪くなり、乾燥するいわゆる「ハリツヤのない状態」となります。この状態が長く続き慢性化してくることで、当然「肌の老化」は進みます。
なお、気・血・水のバランスの崩れ方は様々で、どれが巡りが悪いか、どれが不足しているか(あるいは過剰か)で、乾燥が目立つ、吹出物ができやすいなど、肌トラブルの症状が変わります。
なぜお酒を飲むと太るのか
お酒を多量に飲むと、下半身太りや、ポッコリお腹になりますが、その仕組みを解説します。先ほど肌の老化でもお伝えした通り、過剰なアルコールは気・血・水のバランスを大きく崩します。このバランスの崩れは、アルコールの代謝を行う肝臓だけでなく、食べ物の消化吸収の過程においても起こり、それが太る原因になります。
まず、食べ物の消化吸収の過程ですが、中医薬膳では、食べたものは胃で細かくなり、小腸で吸収された後、必要な栄養は「脾(ひ)」に蓄えられ、血液を通して全身に運ばれます。ところが、過剰なアルコールにより、脾の働きが悪くなると、栄養がうまく全身に運ばれなくなり、溜まっていきます。その溜まる場所が脂肪が付く場所です。
上半身へ栄養が行き届かなくなると下半身に溜まり、下半身太りになります。また、末端まで栄養が行き届かなくなると、お腹周りで栄養が蓄積され、お腹だけポッコリ出たような太り方をします。
さらに、お酒の原料の多くは炭水化物である糖分で、糖分は中医薬膳では「水分を蓄えるもの」です。アルコールで全身に栄養が運ばれなくなっている上に、水分が溜まるため、全身が浮腫みます。
若返りに効果的なお酒とその飲み方
それでは、肌を美しく保ち、スリムな体型を維持するためには、大好きなお酒を我慢しなければならないのでしょうか?
いえ、その必要はありません。むしろ、お酒でアンチエイジングが可能です。アンチエイジングに効果的なお酒の選び方と飲み方をご紹介します。
お酒の種類(蒸留酒と発酵酒)
そのお酒がどのように作られているかを知ることが、自分の体質に合ったものかを判断する一つの基準となります。メジャーなものを簡単にご説明します。
・ワイン…ぶどうを発酵させたもの
・ブランデー…ワインを蒸留させたもの
・日本酒…米、米麹を発酵させたもの
・焼酎…麹を蒸したものを蒸留させたもの
・ビール…麦を発酵させたもの
・ウイスキー…麦など穀物を蒸留させたもの
原料は様々ですが、お酒が作られる工程として、「発酵させたもの」とそれをさらに「蒸留させたもの」と2つに分けることができます。
発酵させたものは加熱していないため「生」の状態、蒸留させたものは加熱しています。
この「生である」「加熱している」という違いは中医薬膳においては、とても重要な意味を持ってきます。
「発酵させたもの=生である」は、どちらかというと「身体を冷やす」性質があります。身体の中に入った時の消化の早さも生の方が時間がかかります。
日本酒やビールなど、生のアルコール飲料は、お腹が丈夫でどちらかというとほてりやすい体質の方に向いています。
一方「蒸留させたもの=加熱している」は、「身体を温める」性質に傾きます。
お腹が弱い方、冷え性の方は焼酎やウイスキーなどの蒸留酒の方が体質に合っているでしょう。
飲み方
選んだお酒をどのように飲むかというのも考える必要があります。
身体がほてっているにも関わらず熱燗にしたり、冷え性の方がウイスキーに氷を入れたハイボールを飲むのは、あまり良い選択とは言えません。
体質に合ったお酒の種類はもちろん、このように飲み方によっても身体への負担は大きく変わります。
飲む量
お酒を飲んで、肌のハリツヤがなくなるのも、浮腫むのも、原因は多量にお酒を飲むからです。お酒を飲む量の目安は、「純アルコール換算量」で決まります。
「純アルコール換算量」は100ml当たりのアルコール体積%のことで、例えば「5%のビール」は「100ml中5%に相当する純アルコールが含まれているビール」です。アルコールの比重は0.8ですので、100ml中5%に相当する純アルコール量は約4gです。この純アルコール換算量は日本では「1日あたり約20gが望ましい」とされています。先ほどご紹介したアルコール飲料に当てはめると以下になります。
・ワイン…グラス(約120ml)で約2杯
・ブランデー…ダブルの水割り約1杯
・日本酒…約1合
・焼酎…7%の缶酎ハイにして350ml缶1本相当
・ビール…500ml缶1本相当
・ウイスキー…ダブルの水割り約1杯
イメージとしては「夕食のお供に好きなお酒を1杯」といったところでしょうか。アルコールそのものは血の巡りを良くしますので「純アルコール換算20g」という適量は、お仕事などで一日頑張った身体のコリをほぐすような効果が期待できるでしょう。
薬酒のご紹介
お酒の「血の巡りをよくする」性質を利用して古代中国から親しまれてきたのが「薬酒(やくしゅ)」です。薬酒とはハーブなどの植物をお酒に漬けたもので、私たちの身近なものだと梅酒があります。
お酒に漬けることで植物の成分を抽出し、お酒の巡りに乗せることでより植物の効果を発揮させるという考え方に基づいています。ここで、かの楊貴妃も愛飲していたとされる一番メジャーなものをご紹介いたします。
楊貴妃が愛飲していたクコ酒のレシピ
<材料>
・焼酎…ワンカップ(25度以上のもの)
・クコの実…4g(スーパーの中華食材のコーナーに置いてあります。)
<作り方>
クコの実を焼酎の中に入れ、2〜3週間置いておく。
クコの実は血を作る手助けをし、肝臓の働きを整えるため、お酒が好きな女性にぴったりのドライフルーツです。1日あたり約20mlずつ好みの割り方で飲みます。ストレートのオレンジジュースが気の巡りを助けるので特におすすめです。ぜひ作ってお楽しみください。
お酒を楽しみながら、アンチエイジングしよう!
体質にあった純アルコール換算約20gのお酒を1日1杯飲む事は、アンチエイジング効果が期待できます。
今まで気持ちのおもむくままアルコールを飲んでいた方は、もしかしたらこの量は物足りなく感じるかもしれません。しかし、アルコールは習慣です。徐々に量を減らし、美肌とスリムな身体に近づくと、当たり前の量になってくるでしょう。
私たちの身体は食べたもの、飲んだものから作られています。お酒を正しく楽しむことで、ご自身の身体を美しく健康に保ちましょう。
参考文献
・現代の食卓に生かす「食物性味表」
・薬酒・薬膳酒協会「薬酒マイスター講座」テキスト
・厚生労働省e-ヘルスネット「飲酒量の単位」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html
・国税庁HP【自家醸造】https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/06/32.htm